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日本の温泉地再生への提言 [23] -第1グループ 官庁・自治体

世界に誇れる温泉のまちづくり

田原迫 要
(鹿児島県)指宿市長


指宿市の現状

 指宿市は,鹿児島市の南約46キロ,薩摩半島南東端の鹿児島湾口に位置し,古くから「湯豊(ゆぶ)宿」の名で知られています。
 伝承によると,天智天皇が海路薩摩路を望み,「人の宿遠し」といったのに対し,供奉の者が「湯豊宿の地近くにあり」と指し示し,これがもとで指宿となったといわれています。
 海辺に湯煙がたちのぼり,温暖な気候と美しい自然に恵まれた本市が,先史の時代から人類にとって格好の安息の地であったことは,橋牟礼川遺跡などからもうかがえます。 特に,天然砂むし温泉は,昭和4年本市を訪れた与謝野寛と与謝野晶子の歌に「天の川しろきを見つつ指宿の磯の砂湯によこたわる人」「しら波の下に熱砂の隠さるる不思議に逢へり指宿に来て」と詠まれているように,薩摩半島屈指の温泉地として内外に広く紹介されています。
 砂むし湯治については,約300年昔の元禄16年頃から行われていました。150年以上昔に編纂された「三国名勝図会」にも,そのすばらしい効能が記述されています。
 明治から昭和の初めにかけて砂むし療法は絶大な信頼を得て,農閑期には近郊近在ばかりでなく全国各地から湯治客でにぎわいました。 戦後は温泉観光ブームに乗り,指宿にも多くのホテル群が進出し砂むしは指宿観光の目玉となり,全国に常連客が数多く増えました。
 本格的な長寿社会の到来に備え温泉を活用した健康づくりが求められるなか,世界に類を見ない砂むし温泉が,その自然療法として抜群の効能を見直されるようになり,ペット治療にも効果を上げ,世界的にも注目を集めています。
 そして,近年なぜ体にいいのか。どんな効果効能があるのか。について,医学医療の分野からメスが入り,そのすばらしい効能書が発表され,湯治客はもとより美容効果を求める女性なども一段と増えております。また平成8年には施設を砂むし会館「砂楽(さらく)」としてリニューアルし,訪れる人々に喜ばれています。


■「砂楽」の温泉成分適応症
●成分
1.源泉名 天然砂むし温泉
2.泉 質 塩化物泉 (低張性,中性,高温泉)
3.泉 温 泉源 摂氏93.1度
4.試験成績
・性状
(ゆう出地)無色透明,食塩味, 収検無味無臭
(試 験 室)無色透明,食塩味,無臭
・水素イオン濃度 (PH)湧出地6.70試験室6.92
・ラドン含有量 2.64×10 −10
・比 重 1.0046 摂氏C1/ kgにおける)
・蒸発残留物   13.6588g/ kg
・温泉成分 本水1kg中に含有する分量



●適応症
1.一般適応症 神経痛・筋肉痛・関節痛・五十肩・運動麻痺・関節のこわばり・うちみ・くじき・ 慢性消化器病・痔症・冷え性・病気回復 期疲労回復・健康増進
2.泉質別適応症 きりきず・やけど・慢性皮膚病・虚弱児童・慢性婦人病

温泉分析年月日/ 平成13年4月18日
分析者 / 社団法人鹿児島県薬剤師会

 また,市内には市営元湯温泉をはじめ個性のある公衆温泉浴場も点在しています。さらに,一部の地域では一般家庭への配湯も行われ,自宅に居ながらにして温泉を楽しむことができます。温泉熱を利用した観葉植物の生産も盛んです。


本市の温泉を利用した事業

 本市は高齢化がすすみ4人に1人は65歳以上の高齢者であるとともに,老人医療費も県平均を大きく上回り,一人当たりの老人医療費は,県内でも上位に位置しております。このため,生きがいをもって健康で長生きできる元気高齢者の育成を目指して,人生80年代を健康ですごすため,温泉利用による健康管理にも取り組んでいます。

1)砂むし温泉入浴事業
 砂むし温泉を活用して,健康づくりを推進。
2)湯友クラブ事業
 在宅高齢者の皆さんが集い合い,市内の情緒あふれる公衆浴場の温泉めぐりを楽しみながら,健康増進と生きがいづくりを促進。
3)ホッとふれあい湯〜トピア促進事業
 公営温泉施設等を高齢者と子供たちが,砂むし温泉に共に入浴し,ふれあいながら健康づくりを推進。

 以上事業と医療費についての因果関係ははっきりはわからないが,平成11年度に本市の老人医療費一人当たりの医療費は県内順位は2位であったが,年々減少し,平成14年度の順位は25位となっている。
 健康づくり生きがいづくりの各種事業のなかで高齢者の意識改革が進んできたものと思われます。
 温泉を活用した各種事業も年々参加者も多くなっている。このことは,デイケアに行く代わりに砂むしに行く高齢者が増えてきたものと考えます。


銭湯文化を楽しもう

 指宿といえば砂むし温泉が有名ですが,数ある民営の共同湯も大きな魅力。
 銭湯は,江戸の昔から庶民の社交場として栄えてきました。
 明治以降も銭湯は人々の生活に不可欠なものとして定着しています。その後,生活様式の変化,核家族化の進展などにより,全国的に減少してきています。
 私は時々銭湯を利用していますが,熱いお湯に身を沈めると本当に幸せな気持ちになります。一緒に入浴している人々と,どちらともなく会話が始まります。
 今の子どもたちには理解できないかもしれませんが,昔,家に風呂の無かった時代,家族皆で銭湯に行くのは大きな楽しみでありました。大人にとっては,そこは単なる風呂でなく,人々と触れ合う憩いの場であり,子どもにとっては人間としての基本的マナーを身につける教育の場でありました。
 今の社会は,大人も子どもも他人に目を向ける度合いがどんどん減っているように感じます。目を向けなくても,一人で生きて行けるかもしれませんが,社会は良くならないんではと思います。
 銭湯はこれらに対応する上で,大切にしたい地域の文化財産です。指宿では,そんな思いを込めて,毎月26日を風呂の日として設定しています。市公衆浴場組合に入っている銭湯はどこでも無料で入浴できます。
 是非,指宿の公衆浴場を体験してください。すばらしい出会いや発見が有ること請け合いです。


温泉地の再生のあり方

 「農業が観光客を呼び,漁業が観光客を引きつけ,泊する。地域限定の特産品のために足を運び,まちを食する。環境の素晴らしさが訪れる者の心をいやし,温泉に浴する」など,足元にある材料を見つめ直し,環境の素晴らしい花と緑にあふれた都市。これから先も住み続けたい長生きの里,世界中から何度でも訪れてみたい砂むしの里として,まちづくりを進めたいと考えています。
 天然砂むし温泉や池田湖,環境省「かおり風景100選」の中に入る知林ヶ島などの自然をはじめとして,オクラ,ソラマメなどの農産物,近海で取れる海産物などの地域内資源を観光と融合することが滞在型の保養地づくりに求められています。
 観光客等に対し安全で安心な食を提供するとともに,地場産品の販路拡大の推進,健康・美容・文化・スポーツ等の機能を持つ長期滞在のできるメニューづくり,そしてスポーツ施設等の整備に取り組む必要があります。
 日本では温泉というと保養のイメージがありますが,フランスでは,そのほとんどが医療目的での利用です。
 各温泉地には専門医が駐在し,その指導の下で温泉療養が行われます。温泉地では長期間滞在しながら療養することが多く,夏季や冬季の長期休暇時は多くの人々でにぎわいます。観光と医療との融合が大きな課題となってきています。
 今後,食・温泉・運動の融合を図り,温泉や海を利用した産業化の可能性を求めていかねばなりません。
 健康づくりの面で,個性的な食,豊富な温泉,それに運動を一体化した産業が必要となってきています。温泉とタラソを組み合わせることにより,指宿流の健康学の確立を進め,今までの温泉地とは違う,美しい自然環境を守り,地域資源を生かした農林水産物,加工特産品,商業等の各分野の産業要素すべてと連携と融合を図りたいと考えます。
 温泉は本市の誇れる「光」ですが,これに教育や文化,あらゆるものを観光資源として組み合わせてさらなる輝きを求めなければなりません。あと10年もするとアジアを中心に観光需要が飛躍的に拡大すると予想されます。観光振興は地域活性化やまちおこしと同義的といえます。これらを視野に入れ,更にアジアに目を向けた地域づくりを急がねばなりません。
 21世紀に生き残れる新しい温泉地のあり方について,調査研究を重ね,実現に向け取り組んでいきたいと考えます。


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