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日本の温泉地再生への提言 [26] -第2グループ 医学

健康のための温泉利用

森永 寛
(岡山) 認定温泉医(岡山大学 名誉教授)


ヒポクラテス医療の原点は、食事その他のこまかい配慮に基づく養生法(regimen,diet)であり、「日光と空気、飲食物、活動と休養、睡眠、排泄、心のはり」の6項目にまとめられ現代に伝えられている。1),2) この条件に適った国民保養温泉地環境を活性化するのは、地域の自治体、住民の決意と勇気にかかっているといえよう。3),4)
 わが国の温泉地では屋外の、オープンの公園、遊歩道、その他社交館(kurhaus)などの公共施設の整備が緊急の課題であろう。

文 献
1) Schipperges,H.:
Wege zu neuer Heilkunst,Tradition−Perspektiven−Programme.Haug Verlag,1978.
2) 川喜田愛郎:近代医学の史的展望(上),岩波書店,1977,59頁.
3) 日本保養温泉地協会:国民保養温泉地ガイド,昭和54年,1頁
カント著,篠田英雄訳:啓蒙とは何か.岩波4) 文庫,岩波書店,2000年6月,7頁

温泉地の再生のあり方        
1 19世紀後半のカールスバート(含炭酸重曹泉)では湯治客は、朝5−6時に起きてどんな天候でも飲泉所(柱廊に数ヶ所の温泉が湧出している)に行き、医師の処方に従って温泉水を8時頃までゆっくりと飲み、9時に朝食をとり、11時頃まで散歩し、隔日に12時過ぎまで入浴し、午後1時に食事、食後2−3時間、気の向くままに時間を過し、4−6時の間、劇を観、友人と談笑し、9−10時には就床するという日課が決められていたようである。ゲーテも1806年、持病の痛風治療のため、主治医の勧めで改めて第4回目の旅行を企て、「温泉水を飲み出してから体調よろしく、ワインは全く飲まない。5時に起きてどんな天候の時でも泉の所へ行き、後、散歩したり、山に登ったりしている」と家族への手紙に書いている1)。生活のリズム回復が図られているといえよう。

2 ドイツ・ノイエナール温泉(含土類重曹泉)地は、人口15,000人、宿泊可能人員5,000人であり、病院に関連した保養所が数ヶ所あって、インスリン発見(大正10年)以前から糖尿病療養温泉地として100年以上の歴史をもち、運動施設その他も十分整備され、温泉地域内の一般食堂は同一料金で、低カロリー食、低脂肪食、普通食の3種類の食事を提供できるよう、糖尿病や肥満者の便宜を図っている。温泉地域全体がこうした病気の予防や治療に役立つよう協力態勢が整えられている2)。

3 ドイツ(旧東ドイツ)のバート・エルスターでは温泉地を囲んで全長17.4kmの環状道路を造成し、保養地域内の宿泊施設からその環状道路に至る12本の遊歩道が整備されており、各遊歩道の長さは片道2.7km以内(往復で5.4kmを越えない、すなわち3〜4時間以内で往復可能)、午前、午後あるいは夕食後から就床時までに行き来できるような距離になっている。遊歩道の勾配、日照の程度、樹木の蔭り具合などがよく調査されており、夏は樹木の多い道を、冬は日当りのよい道が選べるよう、3−4週間の温泉地滞在中、違った道も選びうるのである3)(図1.2)。

4 岡山県湯原温泉(単純アルカリ性泉)では本年9月、湯原町観光協会と旅館組合は町当局・商工会などの後援の下に、先ずは地元観光業者や町民が、歴史があり温泉資源性に富む湯原温泉を知り、これを入湯客に提供するため「温泉指南役」養成セミナーを開始した。地方民と観光客との触れ合いを重視した展開を図るためとしている4)。町内の食堂もカロリー食提供の用意があり5)、遊歩道の計画もすすんでいるということである。温泉療法医指導の下に積極的な温泉地の活用を期待するものである。

付記:初代厚生省公衆衛生局長三木行治博士は昭和4年の岡山医科大学卒業で、蜂谷道彦博士と共に当時の岡山医科大学に三朝温泉療養所(岡山大学温泉研究所・岡山大学病院三朝分院の前身)の設立を進言された由であるが、温泉法(昭和23年)の制定に参画され、岡山県知事(昭和26年−39年)在任中には、岡山県湯原温泉を国民保養温泉地指定(昭和31年6月)、湯原温泉病院設立(昭和35年)、昭和39年には、“子育てを終えた、或るいは子育て中の母性”の休養・保養の場を提供する意向で“ママの別荘”を設立され、保養温泉地の活用を計画されたが、現地ではその施設を十分に活用出来ずじまいであった。時期尚早であったか。また岡山県選出の藤井勝志代議士は労働大臣の折、中・高年齢勤労者の健康管理対策としての温泉地活用を策定されたのが、シルバーヘルスプランとして定着した。
岡山県では、平成6年、湯原温泉地を含む県北温泉地の再開発(県南地域は温水利用施設。アクアヘルスAqua-health推進事業)の策定があったことを付記する。

引用文献
1)Joern Goeres(Hrsg):Goethes Badeaufenthalte 1785-1823. Athernaeum Verlag GmbH,1982,S.36.
2)永寛:温泉地活性化への提案(34).温泉,62(2),日本温泉協会,平成6年,18−19頁
3)Jordan,H.:Kurorttherapie.Zweite Auflage, VEB Gustav Fischer Verlag,Jena,1980,S.90-91
4)山村順次:国民保養温泉地(13),岡山県湯原温泉.温泉,71(6),日本温泉協会,平成15年,19頁
5)民間活力開発機構:温泉療養手帳,第4版,文栄社,平成15年,484頁


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