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日本の温泉地再生への提言 [33] -第2グループ 医学

健康に対する温泉利用の
基本的な考え方


内田 實
(熱海) NPOエイミック 理事長


温泉で健康になれるのか、あるいは温泉の泉質により効能効果にどのような違いがあるのであろうか。まだ科学的に充分証明され尽くしていない現状で、温泉そのものの健康への評価を過大に謳うことはできない。むしろ現段階では温泉利用は人々に健康に興味をわかせることが出来る大きな引き金になると考えている。温泉利用を通して健康に強く興味を持ち、食事、運動、呼吸法、入浴といった日常生活のあり方を考え直す時間を持つことが重要である。温泉利用によって楽しく、精神的安らぎの雰囲気の中で健康法を身につけることができればよいと考える。また温泉利用施設周囲の環境は温泉と健康を考えるときに重要な問題である。温泉利用の方法については様々な事例があり、各地区で自分の地方に合った方法を見つけて実践していくことが大切である。

熱海温泉再生に向けて
〜NPOエイミックの取り組み〜
 我々は平成11年5月に「医療から熱海の活性化を」、「熱海市の医療のネット化」などを目的に熱海メディカルインターネットクラブを立ち上げた。そして平成13年8月に特定非営利活動法人エイミックとなり、現在は温泉、健康、街づくり等をテーマに活動している。その中で力を注いでいるのが「温泉と街づくり」の問題である。
熱海温泉の原点
慶長9年(1604年)3月、将軍徳川家康は義直、頼宣の二人の子供を連れて7日間熱海に逗留した。以来熱海温泉は多くの戦国大名の訪れる温泉地となり湯治場として栄えた。明治以降の熱海の温泉地としての繁栄を物語るエピソードは枚挙にいとまがない。時の要人、軍人、文化人などに愛された熱海はその後100年余、経済成長にともない目覚しい発展を遂げた。我国で温泉分析が初めて行われた温泉場が熱海であること(明治7年)や、初めての本格的温泉療養センター「?気館」が熱海に建設されたこと(明治18年)も、温泉地としての熱海温泉の歴史に華を添えている。しかし、残念ながら温泉専門家の間では、我国で温泉を大切にしない代表的な温泉地として熱海を上げる人が多い。熱海はすっかり温泉を忘れたように見えるが、今、市民や観光関連団体の中に原点に戻り、温泉で町の活性化を図ろうという気運が芽生えてきている。熱海本来の魅力は温泉と自然である。

住民の健康を目指す
我々が住んでいる静岡県熱海市は温泉を利用した観光地であり、豊かな自然の中で、山海の自然食、温泉浴、海水浴、森林浴などを実践して健康的に過ごせる要素を持ち、まさに「温泉保養地」として誇れる地域性を有している。しかし平成12年厚生省統計局の市町村別生命表の概況によれば、熱海市民の平均寿命は男性75.9歳、女性83.3歳で共に県下最下位となっている。平成6年の静岡県の患者調査においても人口10万人に対する患者数(受療率)は循環器系疾患の県平均の1.7倍を始め、消化器系、呼吸器系、糖尿病なども高く、悪性新生物、生活習慣病の死亡率も高いという結果が出ている。
当地域は季節を通して多数の人が健康や休養、保養に訪れる。我々は健康の秘訣を来訪者から問われた時に自信をもって「温泉と自然が豊かな土地柄だから」と言えなければならない。開発されたとはいえ温泉があり、美しい自然が残っている熱海温泉は、住人も健康的に暮らし、長生きであって欲しいと願っているし、そうでなくてはならないと考える。我々は熱海を含め伊豆地区が健康的であること自ら証明してみせる必要がある。地域住民において、成人病や癌で亡くなる方の比率が少ない、医療費が県下で一番低い、要介護の方が少ない、などの事実が内外に向かって示せた時に胸を張って来訪者を受け入れることができる。すなわち自慢できる故郷造りと住民の健康こそが熱海の活性化の第一条件と考える。
温泉を利用した地域住民に対する健康増進施策や取り組みは全国で実践されている。平成13年3月国民健康保険中央会が行った「医療・介護保険制度下における温泉の役割や活用方策に関する調査研究」の報告、あるいは平成15年3月宮城県保健福祉部薬務課で作成した「温泉の保健的利用の手引き(事例中心)」などに様々な温泉の利用方法を見ることが出来る。温泉利用により医療費が削減できたという報告に対する評価はここでは行わない。我々にとって注目すべき事実は、いくつかの事例で純粋に地域住民を対象に初めた健康に対する温泉活用法が評判を呼び、この施設を訪れる観光客が現れるほどにまで成功を収めている事である。

今後の方向
わが国には医療と温泉を結びつけた温泉療法があるが、これをもう少し大きな視野で捕らえると西洋医学以外の医学や伝統医学を示す代替・相補医療という分野がある。そして「西洋医学」と「代替・相補医療」の良い点を取り入れ、双方を隔たり無く実践するのが「統合医療」である。例として挙げれば、中国医学(鍼灸・漢方・気功など)、音楽療法などと西洋医学の癒合が「統合医療」である。統合医療は将来の医療の進むべき道を示唆しており、近年アメリカ等では多額の予算を代替相補医療の研究に費やしている。
筆者は熱海を中心に伊豆地区全体を日本における統合医療の拠点と位置付けて、健康産業を発展させたら良いと考えている。この地域には多くの温泉があり、既に複数の温泉病院が医療に温泉療法を取り入れている。地形的には山も海もあり、山型から海型まで様々な総合医療を行う条件が揃っている。東京に近いことも好条件になる。現在約444万人訪れる外国人訪問者の60%程度が東京に立ち寄ると言われているが静岡県への立ち寄りは約4%に過ぎない。多くの休養、保養そして治療目的で訪れる訪問客や日本人・外国人の健康産業関係者で賑わう伊豆を目指し、温泉療法を中心にした健康産業を地域活性化のために積極的に取り入れられたら良いと考えている。医師会などとも話し合いながらそのための体制作りを早急に進めなければならない。この考えは静岡県で進行中の新静岡空港建設や富士山麓先端健康産業集積構想にも合致し、また国レベルでの外国人観光客の受け入れにも役立つだろう。

NPOエイミックの取り組み
上記を踏まえNPOエイミックでは5つの核をもって街づくりを実践している。低予算の中で我々の活動には制限があるが志は大きく持っている。
1.熱海温泉における温泉療法の実践や病気の人の熱海来訪(旅行)の相談受付として窓口を開き、相談者の希望に答えるべく旅行時の諸問題に対応している。
2.熱海温泉の「温泉」を見直す作業として、温泉調査を行った。結果は既にデータベース化してNPOエイミックのホームページ上に公開している。
3.街づくりは人づくりという考えのもと、子供たちに熱海温泉の「温泉」の事をより深く知らしめるために、湯前神社秋季例大祭に行われる湯まつりに合わせて、熱海温泉や入浴に関する絵画コンクールを始めた。年々応募数が増加する事を期待している。
4.代替相補医療の良さを知る機会として、湯まつり開催時に無料リフレクソロジー体験コーナーを設置している。また「熱海癒しの宿泊プラン」という担病者を対象にした宿泊プランを作成し、代替医療を無料で受けられる宿泊パックを実施している。今後は別の形のプランも検討中である。
5.詳細は省くが温泉を中心にした街づくりに関連して、熱海市に様々な提言を行っている。行政と話し合い、市民対象の温泉を利用した健康づくりを提案しているが実現していない。

結語
現在までに歓楽中心であった熱海が大きく変貌したという事実は無い。しかしこの何年かの私たちの活動を通して、徐々にではあるが市民の間に温泉を中心にした街づくりに関しての関心度、注目度が上がっている。


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