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日本の温泉地再生への提言 [34] -第2グループ 医学 健康のための温泉利用 |
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延永 正 (別府) 九州大学名誉教授 |
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本来温泉は病気の治療に用いられてきたことは各地の風土記に明らかである。多くの温泉を見出したとされる空海の仕事も病に苦しむ人々の救済にあったことは想像に難くない。それが何時しか遊興の手段や目的にも温泉が利用されるようになり、現在ではむしろそれが主流にさえなっているようにみえるが、残念なことである。もちろん温泉をそういう目的に使ってはいけないという積もりはないが、少なくとも休養、保養、療養のために温泉を利用しようと考えるなら、明確にその目的意識を持って温泉地を選び、滞在日数、1日の入浴回数を決めて実行すべきである。もしそれについての知識が十分でなければ温泉療法医なりに相談し指導を受けるのは当然である。その際食事や運動についても助言を得るべきである。以上要するに健康のために温泉を利用するという目的意識を明確に持って実行することが最も重要である。 温泉地再生のあり方 −観光・歓楽指向か健康指向かー 何をもって「温泉地の再生」というのか、かっての高度成長時の賑わいをもって「再生」というのであれば、景気の回復を待てばよいであろうし、また景気回復なくしてそのような「再生」はあり得ないと思われる。マスコミの伝える温泉宿はいずれも風光明媚な環境に恵まれ、デラックスな温泉浴場と綺麗な部屋に、食べきれない程の美味、珍味の並ぶ食事場面によって紹介されるのが相場だからである。これでは一般の庶民が利用しようとは思わないだろうし、ましてやそこで保養、療養をしようなどとは努々思わないであろう。 華やかさは無くても、また利益は少なくても、とにかく温泉地、温泉宿を利用してもらって賑わいを取り戻すことをもって、これも「再生」というのであれば健康志向でいくしかないのではあるまいか。その場合は温泉を持つ旅館やホテルは180度の意識の転換をしなければならないであろう。極端に言えば「旅館」とか「ホテル」ではなく「保健施設」あるいはもっと極端にいえば「老人保健施設」位の意識で経営を考える必要があろう。従って看護士や栄養士、運動指導士(理学療法士でもよいし、“温泉保養士”を養成している温泉地もある)等を従業員に加えることも考慮すべきであろう。いってみれば嘗ての湯治宿を近代化したようなものである。 我々温泉療法医会では温泉療養の積極的な推進のために会員間の情報を密にすべくネットワークの形成を企図している。自身で温泉施設を持たない療法医としては温泉を持つ宿泊施設との提携が必要であるし、非温泉地の療法医は温泉地の療法医に療養者を紹介して療養を依頼しなければならない。その場合この情報ネットワークが役立つわけであるが、その情報の中に温泉の泉質と利用形態とともに療法医の処方箋に基づく療養(食事、運動を含めて)が可能か否か、すなわち上記の専門員が居るか否かが重要になると考えているところである。 いずれにせよ温泉地再生のあり方としては上述した2つの方向が考えられるので温泉地の宿泊施設としてはそのいずれを選ぶかが問われていると言えよう。 |
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