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日本の温泉地再生への提言 [37] -第2グループ 医学

健康のための温泉利用

川村 陽一
(三重) 四日市小山田記念温泉病院


 温泉浴は一般浴プラスαの考えの下で自分自身又、多くの人々に「健康の為の利用」をすすめている。一般浴では得られない良い気分にさせてくれ、古来より日本人の温泉への想いが強く込められている。世の中、ストレスがますます強くなり、高齢社会となるにつれ、運動・薬物では得られぬ大自然の恵みを温泉から受け取ることが出来ると考えている。健康のための温泉利用は何といっても心身の疲れを取るためである。温泉地周辺の取り巻く素晴らしい環境と転地による気分転換も大きく働いている。大切なことは温泉に入ることにより、心身の気持が良くなることであり、殊に中高齢者にとって、生活習慣病の改善などは薬物療法にも匹敵するものである。年に数回でなく、毎週数回規則正しく利用することこそ最大の温泉効用である。

温泉地の再生のあり方

1.始めに
生活習慣病の改善に温泉利用が大きな効用があることは、多くの研究で実証されつつある。まだまだ日本人の温泉利用は個人の考えにまかされており、中には誤った利用さえ行なわれている。今こそ温泉療法医、認定医の正しい指導の下、温泉を利用すべき時代が来たと思われる。幸い全国、温泉地には関係ドクターがみえることより、パブリックに広く公表PRすべきである。普及しない最大の原因は厚労省等行政がいまだに温泉に対する認識が低く、保険適用外であり、国民は正しい健康のための利用の恩恵にあずかっていないのである。
 高血圧・糖尿病・高脂血症・肥満症といった生活習慣病は薬物依存より、一歩抜け出して温泉利用による効用を実感してもらいたい。厚労省の温泉効用の認識がクリアすべき大きな問題点である。国民が温泉利用をたった一泊二日の豪華料理による宴会だけではあまりにももったいない。

2.国民の本物温泉志向
最近マスコミでも取り上げられたが、有名温泉地で温泉が枯渇したにも拘らず、水道水をわかして、客に偽って、営業を続けたり、僅かな配湯を水でうすめたり、循環風呂にして、塩素を大量に消毒用に使ったりして、温泉の質を平気で低下させたりしているケースがみられる。この辺で国民も温泉と名がつけば、その中身をチェックすることなく信用して、いい気分だと浮かれず、インターネット等で(法規制の下)、正確な情報を得た上で利用すべきである。ダメな施設はドンドン淘汰して行く、ここらで国民も食物の成分表示が義務つけられたように、温泉の質表示を義務づけする時が来ている。湯舟の湯が全く外にあふれて来ない温泉、消毒の為にプンプン匂う塩素湯、こういった所は温泉という字を利用させないことだ。業者は営業妨害というかもしれないが、外国産牛肉を松坂肉と偽って売っていることと等しい。インチキ温泉、ニセ温泉といっては酷だが、この際行政処分をする必要ある。私の近くにも古くより、有名な温泉があるが、バブルがはじけ、大勢のドンチャン族が潮が引いたように減少すると共に、倒産閉鎖するホテルが続出している。国民は本物に入りたいと考えが変わって来ているのだ。1人ないし2人の少人数客を大切にして来なかったツケが今、来ている。周りの山々の環境は素晴らしく、渓谷美は、四季それぞれ満点である。何故こんなことになってしまったのだろう。業者の考えが非常に古く、団結した組合でなく、街ぐるみの活性化への努力があまりみられない。世代交代もうまくいってないではなかろうか。行政よりの支援も積極的とはいえない。

3.温泉地の活性化
衰退した温泉の活性化は温泉街ぐるみの努力(PR、新しいイベント、各ホテルの工夫改造が一番大切)例えば若者が行かなくなった今日、対象はなんといっても高齢者であろう。まずバリアフリーにし、車イス対応があり、入浴の安全化、高齢者向けの夕食の工夫が必要であろう。なぜ判で押したように全国一律、料理に刺身、エビ等が山奥で提供しなければならないのだろう。もういい加減に業者の方々も、古くよりの流れを変えて、それぞれの地方や店の独自色を出した方がどれ程喜ばれることだろう。冷凍技術の発達で、だんだん山奥で海のものが出て来るのは、ある程度いたし方あるまいが、海辺に住む私がまずい変色したサイの目マグロを食べて喜ぶはずがない。

4.新時代の温泉地利用法
 いよいよお客のニーズに答えて行く個別化の時代が温泉ホテルや旅館にも来たのではないか。医療・福祉の世界(殊に福祉の分野)で利用者のニーズに合ったものを知って、対応する。しかも小規模グループに対応をしっかりとして行くことが温泉地の活性化に徐々ではあるが貢献して行くものである。
 今後益々高齢化社会になる世の中で、自立した老人は言うに及ばず、要支援、要介護の方々で、ハンディの為に温泉に行くことをあきらめている人々に対象を向けて、温泉に来てもらったらいかがであろう。本人は勿論、家族の方々も、亡くなる前にゆっくりいい温泉に泊ってもらえたら、さぞ喜んでもらえることであろう。バリアフリー化、風呂の改装費の初期投資は要るだろうが、デイサービス等、地域利用も併設してやれば、仲居さんばかりでなく、ヘルパーの人々を雇ってケアしてあげれば喜ばれることだろう。
 車イス対応マイクロバスでもあれば、送迎付き料金でも、少々高くても大いに歓迎されることと思う。団体客、少人数、ケア付きと多機能ホテルにできれば、有利だが、逆に小規模、地域密着型個別対応も一つの生き残り方法であろう。最近旅行業者も高齢者対応旅行を企画しているが、しっかりしたホテル側の対応さえ充実していれば、今後大きく伸びる分野と考える。スタッフの入浴介助の技術教育は多くの福祉施設で実習すればOKである。よければ又リピーターとなってくれ、お客をひっぱって来てくれることだろう。
 
5.温泉地の食事への考察
食事の対応が大変ならば、街のレストランや料理屋と提携して、当方は温泉を快適に利用していただき、食事は近くで和洋・中華・ラーメン等の店へ紹介し、街ぐるみの分業体制をとってみてはいかがであろう。勿論、車での送迎サービス対応可能であってもよい。
 旅館は館内ですべて客のニーズを満たす所が多いが、近代ホテルでは客の選択にまかせている所も多い。簡単な夜食ぐらいはスナック風にやれば可能である。いつでも入浴できることは、豊富に湧出している温泉地なら可能であり、客のニーズの一つでもある。
 客は実に若者から高齢者迄のニーズは多種多様であり、全部に答える事は難しい。ある程度、ホテル、旅館の対応できる事をはっきりさせ、インターネットに詳細にPRしておくことにより、客も安心してその店を選べることであろう。最近、温泉スタンプラリーを行って、いくつかの温泉を利用する事より、その温泉地や店のよさも味わえ次回のリピーターとなり得るし、店間のいい意味での競争、刺激になろう。

6.長期滞在客への対応
 次に長期滞在型温泉地利用について私見を述べる。我が国では全国各地に少数ながら存在するが、なんといっても滞在費用と長期休暇が安心してとれるかが課題である。3食付きで、入浴自由、温泉入浴指導付きで1ヶ月、10万円を最低に上限は客のレベルに頼らざるを得ない。お金のある方でも一流ホテル、旅館に一ヶ月ゆったりと滞在できる層は限られてくる。食事も同じ傾向なら飽きがくるし、新鮮味もなくなる。日本人のせっかちさとあきっぽさも影響している。
 ここで一つの目標をもってもらい、目標達成感を味わって帰ってもらったらいかがだろうか。例えば肥満の人に減量が成功して喜んでもらうとか、コレステロールを下げる、血圧を下げる、血糖値を下げる等である。温泉療法医に、ここでかかわっていただくことである。
ただ漠然と滞在していても仕方がない。
 健康人が長期滞在するのは、心気の衰え、ストレスの解消の為ぐらいだろう。
 これとても、よきアドバイザーがあってこそであろう。是非共、療法医の活躍に期待したい。

7.理想の温泉街とは
最後に私の理想とする町や温泉地はどのようなものか述べてみたい。私の運営する小山田温泉を利用した医療、福祉施設群は10数ヶ所あり、全館アルカリ単純泉(51℃810? /分)の恩恵に浴しているが、ここに不足しているものはアミューズメントと変化のある工夫である。多くの利用者の個別ニーズには全部答えられないが、藍染め、作陶、カラオケ、動物園、散歩道等の仕掛けがある。もっと楽しい温泉地にするにはきめ細かいことに対応していきたい。例えば食事でも個別ニーズに対応できるレストランの創設、楽しい介護予防のできるパワーリハビリ等である。温泉保養はもっともっと楽しんで効果を上げたいものである。先に述べた安価な長期滞在ホテルを作りたい。一歩一歩着実に実現に努力したい。私の施設群は1987年、堀削に成功して以来、色々な工夫をして喜ばれているが、地域密着型で温泉利用の研究を今後も実践し続けて行きたい。
 多く人々に喜んでもらえるもの、それは温泉である。


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