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日本の温泉地再生への提言 [64] -第2グループ 学者・専門家・団体

温泉地における環境負荷の削減について

川崎 義巳
株式会社エコドクター 取締役副社長



今日、地球規模で私達の住む環境において種々の問題が生じている。
二酸化炭素、メタン、亜酸化チッ素、フロンなどの温室ガスによる地球温暖化の現象がある。その影響は気候の急激な変化を起こし異状気象が多発し自然の生態系や私達の日常生活に影響を及ぼしている。地球全体の「水」のバランスがくずれ世界各地で季節はずれの洪水が起こったと思えば一方では砂漠化が進んでいる。
温泉水の湧出量の変化や枯渇、含有成分への影響なども当然、危惧される状況である。
又、森林破壊により本来、木々がもっている能力である二酸化炭素や酸性雨の原因となるイオウ酸化物、チッ素酸化物などの有害ガスを除去する作用や酸素の供給作用が減少している。その他、フロンガスの放出によりオゾン層が破壊され極端に層が薄くなるオゾンホールがみられるようになった。これにより有害な紫外線をあび生物に影響がでることも予想される。すなわち、地球のあちこちで自然の浄化能力が確実に低下しているのである。
このような環境変化のなか日本の温泉地には四季折々の風情があり、楽しみ方があり、世界でも類をみない自然と一体化した特徴がある。日本人は温泉を自然環境とともに上手に利用してきた長い歴史をもっている。今、これらの温泉地を取り囲む環境についても温泉水の汚染、河川の汚濁、土壌汚染、大気汚染、廃棄物の増加、化学物資の溶出、交通渋滞、騒音、乱開発などの諸問題を抱えている。安定した自然環境を保つためには環境負荷の原因を排除すればいいということになる。環境をチェックする方法はいろいろあるが例えば水質汚濁防止法に基づく試験、環境省告示に基づく産業廃棄物・土壌汚染・排ガスなどの試験、環境ホルモン試験、水生植物・生物試験、生分解性試験、農薬取締法に基づく試験などが適宜実施されている。いずれにしても事実を把握して対応していく必要がある。
環境省は昭和48年から「自然環境保全基礎調査」を実施している。これは陸域の植物・生物、地形・地質、陸水域での河川・湖沼、海域での生物・環境など、生態系について現状を調査し、その結果は自然環境の基礎資料や自然保護行政などに活かされている。問題を抽出してその原因を探し出していくひとつの施策例である。環境に大きな影響を与えるエネルギー問題はどうであろうか。エネルギーの種類には電気、原子力、光、熱などがあり具体的な発電方法は火力、原子力、水力などがあげられる。最も多く使われているのは石油、天然ガス、石炭などの化石エネルギーである。これらは温暖化の原因となる二酸化炭素を放出するため新エネルギーの開発が必要となっている。代替エネルギーとして注目をあびているのが自然エネルギーである。風力、太陽光、地熱、潮力などを利用したクリーンエネルギーの利用である。デンマークでは国内電力需要の約10%を風力でまかなっているといわれ、最近、日本でも各地に導入さるようになってきた。普及については風力発電設備が高価であることや発電に適した一定の風力が得られる立地が少ないなどの問題はあるが今後発電コストも下がっていく可能性はあり有望である。
太陽光はすでに個人住宅においても温水装置や太陽発電パネルを取り付け利用されかなり普及している。工業的利用も含め多方面に応用可能なエネルギー源である。
地熱利用はまさに温泉と関係がある。温泉も地熱資源の利用法のひとつといえる。現在、全国で約20ケ所の地熱発電所がある。イタリアの温泉地アバノ・モンテグロットでは約110あるホテルのすべてが地熱利用の暖房システムを採用している。発電とおおげさに考えなくても応用可能な熱源である。
潮力については日本でもいろいろと検討中と聞くが潮力発電技術のノウハウはノルウェーが知られておりすでに実用化されている。
日本の温泉は山、高原、川、湖、海浜などに沿っていたるところにある。
これらの地形環境を活かして温泉地においても将来的には自然エネルギーへの取り組みが期待される。
温泉地は温泉を核として自然にふれ合い静養、保養、休養、療養の場として快適に過ごす所である。
山あいの温泉地を取り囲む森林を利用しての地形療法は各地でおこなわれているが平成16年林野庁は森林環境が人の心身にもたらす効果について医学的調査を実施すると発表した。これは森林浴によるストレスホルモン、脳活動の変化など生理的反応の解明をはじめとして最適な森林環境の態様解明などを目的としている。
気候学的な環境要因としては温度、湿度と降水量、日光と光線、大気中のガス、海抜高度、地形状況などがあげられ、利用にあたってはこれらの項目を四季を通じて測定していくことが必要である。
温泉だけでなく周りの自然環境の必要性と有効性を検討することは重要である。
ここで温泉地の環境関連問題について宿泊施設内の細かい点にも目を向けてみる。
温泉地の施設ではいろいろな商品が使用されているがこれらについても環境アセスメントの分野でよく使われるライフサイクル的志向が求められる。
使用される商品に関して生産時の原料素材、エネルギー消費から使用時、廃棄されるまでの環境負荷の削減を進めていく必要がある。
大量に放出される生ゴミの問題にしても現在、家畜の飼料、肥料などへ再利用されたりしているが問題は生ゴミの全体量を減らすことにある。
それには宿泊施設で提供される料理の素材、種類、量などの再検討も必要だし、利用者に対して食べきれないほどの料理をサービスのひとつとして提供するのにも問題がある。一部では実施されつつあるようだが、これからは例えば一般食、老齢食、美容食、療養食などの料理が予約時に選べるようなシステムも必要であろう。それにより食べ残しも少なくなるであろうし結果として使用する洗剤量も減り、排水に含まれる有機物も減って河川への環境負荷も削減することになる。
さらに利用者が快適に過ごすために多種のアメニティグッツが用意されているがこれらも大量消費され、投棄されてゴミの山となり、燃焼の際には有害物質を発生したりする可能性も考えられる。
平成13年より商品やサービスを購入する際には環境を考慮して必要性をよく考え環境への負荷ができるだけ少ないものを選んで購入していこうという「グリーン購入法」が施行され、使い捨て型のシステムを見直し新たに循環型社会をつくっていく必要性が認識されるようになった。
これによりメーカーも環境負荷の少ない新商品の開発に力をいれるようになってきている。
一般に使用されている商品としては固形石鹸、ハンドソープ、ボディソープ、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、各種スキンケア・ヘアケア化粧品、カミソリなどがあげれる。その他、客室にはタオル、歯磨き、歯ブラシ、クシ、ティッシュ、便せん、封筒、ボールペンなども用意されている。
これらの商品を環境という観点からみると、提供する商品の種類は適正か、過剰包装されていないか、内容量は多すぎないか、内容物の素材・原料・機能性はどうか、包装容器資材の分別・リサイクルの確認は、分包タイプでゴミを増やしていないか、ディスペンサーやボトルへの転換は、カミソリや歯ブラシなどの持参を推奨しているか、商品の簡素化について協力を依頼しているか、
洗剤類は環境負荷の少ないものへ転換しているか、グリーン購入法を考慮しているか、地域活動のなかでこれらの商品を検討しているかなどのチェック項目があげられる。
宿泊施設側だけでなく利用者にもいたせりつくせりのサービスが当たり前と思わず本当に必要かどうかの意識改革が求められる。
アメニティグッツのような消耗品は、より安価な商品の購入へと考えがちであるがその商品が環境負荷の削減に対しどのように考慮されているかにも目を向けるべきであろう。
例えば洗剤を例にとってみると従来は環境に対する評価項目としてBOD
(生物化学的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)などによる生分解性試験などが実施されていたが最近はさらに生態環境試験として藻類生長阻害試験、魚類急性毒性試験などが検討されている。
ボディソープやヘアシャンプーを例にとると成分的に天然植物系で構成された商品で河川に排水が流れてもすみやかに生分解され、水生生物にも影響を与えず、富栄養化による藻の発生もない生態系をこわさない商品を選択する必要がある。
これらの商品は設計の段階から環境を守ることを基本コンセプトとして開発されており包装形態まで考慮され詰め替え用としてゴミを出さないことや、使用量も少なくて機能性を発揮するため、すすぎ水の節約にもなるものである。
温泉地の水・土壌・大気という環境トライアングルに対しては環境ホルモンの問題も含めて化学物質の管理、削減や廃棄物の削減、環境対応商品への転換などを実施していく。そのためには地域としての総合的環境活動(環境方針、環境コミュニケーションなど)のなかで諸問題を取り上げていくことが大事であり、できることから対応していくことが必要である。
ドイツでは保養指針(クアオルト)に基づき、温泉保養地についての環境も細かく決められていることはよく知られている。
温泉管理(泉源の管理、温泉水の分析実施、引湯技術の改良など)、環境保全(街なみ保全、自然保護、文化財保護など)、環境整備(宿泊施設、観光施設、文化施設、運動施設、交通規制、上下水道など)、温泉地の核となる施設(保養館、入浴館、治療館、保養公園など)について決められている。
これらのすべてを日本の温泉地にあてはめることもないが学ぶべき点があるとすれば導入すればいいと思う。
又、環境先進国のドイツでは子供の頃から「環境教育」に力をいれている。
これは大事なことであり、環境に対するしっかりとした考え方を持ち続けることにより問題点を見つけて適切な行動をとることができる。
すばらしい自然環境、気候風土にめぐまれた日本の温泉地を将来に向かって残していくことは私達の義務である。


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