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日本の温泉地再生への提言 [66] -第2グループ 学者・専門家・団体 温泉をプラットホームにした健康増進支援システムの構築 |
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大木香一郎 ウエルネス・ビジネス研究所 代表取締役 |
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■ はじめに わが国は高齢化の進展と併せて、生活習慣病が急速に増加し、医療費の増加と国民のQOLの低下を招いている。健康寿命の延伸策としての「健康の産業化」は、生活者はもとより、国も、産業界も最も関心の集まるテーマであり様々な政策や、商品があふれているが、なかなか実効が上がっていないのが実態である。 その背景には、生活者にとって「健康になりたい」「健康に暮らしたい」願望は誰もが持っているものであるが、「どうしたらよいかわからない」「わかっているがなかなか行動が伴わない」「行動したが、永続きできない」のが実態である。又、病気の人にはかかりつけ医の処方箋があるが、元気な人には、そのニーズも十人十色で、個人に合った処方箋が無く、提供されていないので、消費者の健康意識の多寡に左右される所が大で、“個々人のエンパワーメンとを引き出し健康な生活習慣を定着させる事の難しさ“がある。健康増進行動を「動機付け」し、正しい生活習慣を「習慣化」する方策が求められている。 そこでこの「動機付け」及び「習慣化」の方策として、誰もが集う温泉を「健康増進支援の場」として活用し、温泉療法のみならず、日常の健康増進に繋がる「健康増進支援システム」の構築を提言したい。 ■ 健康増進市場の実態と課題 1)国の健康増進政策は、なかなか実効が上がっていない 健康寿命延伸には、国家テーマとして、厚生労働省が推進する国民健康づくり運動・「健康日本21」等、数々の政策が打ち出されている。しかしながら、行政や健保組合による推進策は、運動推進のリソースが少ない事もあり、ひたすら唱えて、紙媒体による啓蒙活動が中心で、効果的なソリューション(ツール)が活用されていないのが実態である。 2)健康増進行動は苦痛が伴うこともあり、その「動機付け」「習慣化」は難しい 生活習慣病の代表格である糖尿病は、予備軍も含めて1,620万人(厚生労働省調べ)で成人の6.3人に1人の割合であり、この5年間に250万人も増加している。しかも、糖尿病は自覚症状が少ないので、予備軍の約4割が治療を受けておらず、又1割の人は治療を中断しているのが実態で、肥満状態人口を含めた自覚症状のない段階での、健康増進行動の「動機付け」「習慣化」の難しさが浮き彫りになっている。 3)生活者の「どうしたら良いの・・」に応える社会インフラが未熟 どのような人に、どのような食事及び運動、休養を勧めたら良いか「食事箋」「運動」「休養箋」といった「健康のアルゴリズムのデータベース」が必要であるが、今日までこのデータベースを収集するのが難しく、データが少ない。そして、このエビデンスに基づく健康アルゴリズムを活用した様々なソリューションを、生活者に提供する社会システムの構築が望まれている。 ■ 温泉は健康増進支援システムのプラットホームとして最適 「健康」を意識すると苦痛が伴いがちで、長続きしないのが一般的である。楽して健康になりたいのは万人の希求するところで、温泉は気楽に健康に繋がる場として認識されている。この「無意識な場」は、湯治はもとより、日常の健康増進支援を支援するプラットホームに適している。 1)健康意識のバリアが低い多くの人が集う場で、データ収集が容易 生活者の「どうしたら良いのに・・」に応えるにはまず個々人の健康データが必要である。この「データ収集の場」として温泉は最適であり、意識せずにデータを収集することが可能である「動機付け」の第一歩である健康診断のために、保健所や、病院あるいは人間ドックへというと、なかなか気が進まないものであるが、温泉は誰もが気楽に集える場である。 2)健康のアルゴリズムを開発する場になる 「食事箋」「運動箋」「休養箋」といった健康のアルゴリズムのデータベースを開発するのは、産・官・学が連携して推進されるが、多くのデータを収集する場の確保が難しいとされているが、温泉には老若男女、病気の方から元気な方まで、様々な方が集うので、実証実験の場として活用しやすい。 ■ 温泉をプラットホームにした健康増進支援システム構築構想 健康増進支援は、I「体調チェック」、II診断・処方、III健康増進支援の3つのステップでなされるのが一般的である。このIおよびIIのステップを温泉で提供し、ここで収集したデータを、ITを活用して、個々人のIII日常の健康増進活動の支援に活用する、ユーザーフレンドリーで温泉地活性化のビジネスモデルを提言する。 1)I「体調チェック」データ収集システムとデータセンターづくり ICタグ等によって温泉来場者の体調データを収集する。そしてこのデータを集積するデータセンターを設置する。このデータセンターには、別途開発された「食事箋」「運動箋」「休養箋」といった健康のアルゴリズムのデータベースもインストールされる。 2)健康コンシェルジュによるII「診断・処方」 「温泉療法」に加えて、「運動」「食生活」「休養」といった生活習慣改善のカウンセリングができるインストラクター「健康コンシェルジュ」を養成し配置することで、滞在中に健康のことならすべてお任せの体制を作る。「健康コンシェルジュ」は雇用の開発にもつながる。 3)個々人のIII日常の健康増進活動の支援は、ITの活用/会員組織化 「温泉・健康ホームページ」を開設して、滞在中の健康データを、ICカードで持ち帰り自宅のパソコンで閲覧したり、又日常の健康データを入力してもらう。個人はデータセンターにアクセスすることで、日常的に「健康増進の処方箋」が入手できるシステムを構築する。又、温泉に再来場する際には日常データをベースに「個々人に合った、健康増進メニュー」を準備することも出来る。 4)温泉地ネットワークの構築 このデータセンターは、全国の温泉地間でネットワーク化して、ユーザーの健康特性にあった温泉地のお勧めや、情報提供ができる、「温泉のことならすべてお任せ」のワンストップソリューション・プラットホームにする。 5)異業種とのプラットホーム・コラボレーション このプラットホームは、健康管理機器や増進機器及び食品そして健康クラブ等、様々な健康増進に関わるあらゆる産業が参画して商品及びサービスの開発に活用できるものとし、異業種のユニバーサルリレーションにもとづくビジネスモデルができることで、「健康の産業化」に繋がる産業振興が期待できる。 6)地域の健康増進への貢献 観光客はもちろんのこと、このシステムを地域の住民への健康増進支援に活用することで、地域の医療費の抑制と、住民のQOLの向上が期待できる。そのためには、自治体や医療機関及び地域の流通機関等との連携できるネットワーク構築も必要である。 ■ おわりに 温泉を「ヘルスケア×ITの活用」の視点で、新しいビジネスモデルとして提言させていただいた。温泉には全くの門外漢であるので焦点がずれた内容であったらご容赦ください。「健康の産業化」を推進したい一人として、のんびりくつろげる温泉は、様々な可能性を秘めた「場」であることを、原稿を書きながら再認識した次第です。 |
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